04




その四、先輩達の思惑



笠松の部活が終わる頃には堀の受けていた講義も終わっており、帰りの時間が重なった女子学生達がモデルのキセリョに気付いてバスケ部の体育館前にちょっとした人だかりが出来ていた。黄瀬の隣にいた鹿島も格好良い!誰?名前は?とその輪の中に巻き込まれていた。

合流した堀は着替えを済ませて部室から出てきた笠松と、遠巻きにその輪を眺める。黄瀬は別に、先に着替えを済ませている。

「すげぇんだな、黄瀬の奴」

改めてモデルのキセリョの人気ぶりを再認識したと堀は人だかりの様子に感心したように呟く。

「なんか鹿島まで巻き込んじまって悪いな」

「いや別に、大丈夫だろ。あいつもちやほやされるのは好きだからな」

後輩の心配を微塵もしてない辺りが、この光景が日常茶飯事なのだと互いに教えていた。

「ところで…今年、黄瀬もうちの大学受験するのか?バスケ部に見学に来たんだろ?」

「なに言ってんだ。黄瀬はまだ二年だぞ。受験するとしても来年だろ」

今日の黄瀬の来訪理由をそういうことだと思っていた堀は返ってきた返事に軽く目を見開く。

「は?あいつ…三年じゃないのか?」

「あ?言ってなかったか?黄瀬はまだ高二だぞ」

「マジか…。鹿島より落ち着いて見えるのにまだ二年か」

どういう基準で見てるんだと、笠松は堀曰く落ち着いて見えるという黄瀬に、あいつ落ち着いてるか?と首を傾げた。
人に寄って見方は様々である。

「お前のその論法でいくと、鹿島は今年うちの大学を受験するのか?」

「いや、そうとは言ってないな。けど俺としてはまた鹿島の演技を一番近くで見たいとは思ってる」

今日、大学構内を案内している時に、演劇部の部長に呼び止められたからその時に一応鹿島のことは紹介しておいた。
それだけでなく堀は普段から後輩の鹿島の話を部内でしていた。演技力が高く顔も良い。磨けばもっと、今まで以上に光るだろうと。
そして鹿島は偶然にも、堀の言葉を体現するように部長に向かってその演技力を遺憾無く発揮してくれていた。

一番近くで見ていたいという、堀の気持ちに笠松も共感を覚えて同意の言葉を返す。

「俺も個人的には黄瀬とはまた同じチームで、今度はインターカレッジで優勝目指したいとは思うけどよ…」

進路については口出し出来ない。
それは来年、黄瀬が決めることだ。
モデルに専念するも、バスケを続けるも。

笠松に唯一出来ることは、大学のバスケ部に黄瀬を連れてきて紹介するぐらいだ。来年、キセキの世代を獲得するということになった場合に少しでも黄瀬のことを覚えていてもらえれば。後は笠松がレギュラーの座を獲得して、定着すれば…。
黄瀬は今日飛び入りで参加した紅白戦で笠松と阿吽の呼吸での連繋をみせた。海常の黄瀬として。

「なぁ、笠松。なんか俺ら似たようなことしてねぇか?」

「本当、奇遇だな堀」

堀と笠松は後輩の意思を尊重して決して進路には、口は出さないつもりでいる。
ただ口を出さない変わりに、ちょっとだけ道標は作らせてもらっていた。

二人は顔を見合せてふっと可笑しそうに笑い合う。
もしかしてこれだから中学の時、知らずのうちに意気投合していたのかもしれない。

「ちょっと、先輩達だけでなに楽しそうに話ししてるんですかー!」

「酷いっス!自分達だけ楽しそうにして、助けて欲しかったっス!」

堀と笠松が笑いあっていれば、輪の中から何とか解放された鹿島と黄瀬が文句を口にしながら駆け寄って来る。

「お前だって女子に囲まれて楽しそうにしてただろうが」

「それとこれとは別ですよ!」

「俺に助けを求めるな。無理だって分かってんだろ」

「うっ…、それでもずるいっス!俺もセンパイと一緒にお喋りがしたかったっス!」

ぶちぶちと文句というよりは拗ねた様子の後輩二人に堀と笠松はやれやれと息を吐いて、「ほら、帰るぞ」と告げた。
途端にぴたりと口を閉ざして、素直に隣に並んできた後輩達に堀と笠松は表情を崩してまた笑った。


置かれた道標をどうするかは後輩達次第だ。



[ 17 ]

[*prev] [next#]
[top]



- ナノ -